手術前でのルーティンのポビドンヨード（イソジン）ガーグル含嗽が、感染防止に有効とのエビデンスは見当りません。

ブラッシングなどの口腔清掃（口腔ケア）は、誤嚥性肺炎や感染性心内膜炎などの感染症の予防に有用であることが分っています^1～4)。周術期においても、手術後の誤嚥性肺炎などの予防に、口腔ケアの有用性が明らかにされてきています^3,4)。このため平成24年度より、診療報酬において「周術期専門的口腔衛生処置 80点」が算定できるようになりました。歯科衛生士が、口腔清掃用具等を用いて歯面、舌、口腔粘膜等の専門的な口腔清掃又は機械的歯面清掃を行うことが推奨されています。機械的清掃により、舌苔やプラーク（歯垢）内のバイオフィルム形成細菌を除去することが重要視されているのです^5,6)。

しかし、消毒薬の含嗽のみでは、バイオフィルム形成細菌の殺滅・除去はできません^7～9)。したがって、術前の口腔ケアは、たとえポビドンヨードやクロルヘキシジンなどの消毒薬を用いても、機械的清掃が必須条件になります¹⁰⁾。

なお、14日間以上などの長期にわたるポビドンヨードの含嗽は、吸収による全身毒性や、口腔内の常在菌叢を乱らすという観点などから勧められません。ウイルス性口内炎や外傷性の潰瘍などの場合を除いて、長期にわたるポビドンヨードの含嗽は避けて下さい¹¹⁾。

参考文献

1. Yoneyama T, Yoshida M, Ohrui T, Mukaiyama H, Okamoto H, et al: Oral care reduces pneumonia in older patients in nursing homes. J Am Geriatr Soc 50:430-433,2002.
2. 新崎　章：医学部附属病院における口腔ケアの現状と展望－琉球大学医学部附属病院－．日本口腔ケア学会誌 7: 5-11, 2013.
3. 寺岡加代，岸本裕充，田中義弘，他：入院患者に対する包括的口腔管理システムの構築に関する研究．財団法人8020推進財団，東京，2006．
4. 黒川英雄，高藤千鶴，木村ひとみ，諌山美鈴，中道敦子：病院歯科口腔外科における周術期口腔ケアの有用性に関する研究．日本口腔ケア学会誌 6: 5-11, 2012.
5. 栗田　浩：口腔内潜在性感染と口腔ケア．信州医誌 51:273-280, 2003.
6. 角　保徳：高齢者の口腔状況と要介護者の口腔ケア．日老医誌 38:478-480, 2001.
7. Hoang T, Jorgensen MG, Keim RG, Pattison AM, Slots J: Povidone-iodine as a periodontal pocket disinfectant. J Periodont Res 38: 311-317,2003.
8. Pitten FA, Kiefer T, Buth C, Doelken G, Kramer A. Do cancer patients with chemotherapy-induced leukopenia benefit from an antiseptic chlorhexidine-based oral rinse? A double-blind, block-randomized, controlled study. J Hosp Infect 53: 283-291, 2003.
9. Seguin P, Laviolle B, Dahyot-Fizelier C, et al: Effect of oropharyngeal povidone-iodine preventive oral care on ventilator-associated pneumonia in severely brain-injured or cerebral hemorrhage patients: a multicenter, randomized controlled trial. Crit Care Med 42: 1-8, 2014.
10. Okuda M, Kaneko Y, Ichinohe T, Ishihara K, Okuda K: Reduction of potential respiratory pathogens by oral hygienic treatment in patients undergoing endotracheal anesthesia. J Anesth 17: 84-91, 2003.
11. Ferguson MM, Geddes DAM, Wray D: The effect of a povidone-iodine mouthwash upon thyroid function and plaque accumulation. Br Dent J 144: 14-16, 1978.