たとえClostridium difficile 腸炎患者に使用後の大腸鏡スコープであっても、用手予備洗浄後に自動洗浄消毒器(フタラール)で処理すれば、その後のEOG滅菌は不要です。
Bacillus atrophaeus (枯草菌)や炭疽菌などのバチルス属や、C. difficile や破傷風菌などのクロストリジウム属は芽胞を産生して、これらの芽胞は消毒薬に抵抗性を示します。ただし、クロストリジウム属の芽胞の消毒薬抵抗性は、バチルス属に比べると弱いです1~3)。たとえば、0.3%フタラールによる芽胞の殺滅時間はB. atrophaeus では96時間ですが、C. difficile では5分間です(表)1)。ここで、フタラールの0.3%濃度は、頻回使用によりかなり濃度低下した状況を想定しています。また、本表では105個の芽胞を用いての結果ですが、実際使用では用手や自動洗浄消毒器での洗浄による芽胞の除去効果が期待できるので、消毒時にこのような大量の芽胞が付着していることはないと推定されます。したがって、C. difficile の芽胞汚染の大腸スコープであっても、フタラールの5分間接触で十分な消毒効果が期待できます。
ご質問者様の病院では、自動洗浄消毒器(フタラール)の消毒時間を「5分間」に設定しておられると思いますが、この消毒時間であれば、消毒後のEOG滅菌は不要です。
芽胞数(cfu / mL) | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0 | 30分間 | 1時間 | 2時間 | 3時間 | 6時間 | 24時間 | 48時間 | 72時間 | 96時間 | |
0.3%液 | 5.7× 107 |
4.6× 107 |
4.5× 107 |
4.6× 107 |
3.1× 107 |
2.1× 107 |
7.8× 106 |
8.0× 103 |
20 | < 20 |
0.3%液+ 0.1%アルブミン |
2.9× 107 |
2.5× 107 |
2.1× 107 |
2.1× 107 |
2.1× 107 |
1.5× 107 |
2.6× 104 |
40 | < 20 | |
0.55%液 | 2.3× 107 | 2.2× 107 | 1.8× 107 | 1.7× 107 | 1.4× 107 | 8.5× 104 |
< 20 | < 20 | < 20 | |
0.55%液+ 0.1%アルブミン |
2.4× 107 | 2.4× 107 | 2.2× 107 | 1.5× 107 | 1.1× 107 | 7.5× 106 |
50 | < 20 | < 20 |
芽胞数(cfu / mL) | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
0 | 15秒 | 30秒 | 1分間 | 2分間 | 5分間 | 10分間 | |
0.3%液 | 1.0× 105 |
2.4× 104 |
2.3× 104 |
1.5× 104 |
< 100 | < 100 | < 100 |
00.3%液+ 0.1%アルブミン |
2.0× 104 |
1.9× 104 |
1.3× 104 |
6.5× 102 |
< 100 | < 100 | |
0.55%液 | 1.4× 104 |
1.8× 103 |
< 100 | < 100 | < 100 | < 100 | |
0.55%液+ 0.1%アルブミン |
1.8× 104 |
2.8× 103 |
< 100 | < 100 | < 100 | < 100 |
- 参考文献
-
- 尾家重治,神谷晃:アルデヒド系消毒薬の殺芽胞効果.環境感染,18:401-403,2003.
- Oie S, Obayashi A, Yamasaki H, et al: Disinfection methods for spores of Bacillus atrophaeus, B. anthracis, Clostridium tetani, C. botulinum and C. difficile. Biol Pharm Bull 34, 1325-1329, 2011.
- Rutala WA, Gergen MF, Weber DJ: Inactivation of Clostridium difficile spores by disinfectants. Infect Control Hosp Epidemiol 14, 36-39, 1993.
尾家 重治(山口大学医学部附属病院 薬剤部)
2014年11月