酢酸水の使用が感染対策に有効とのデータは見当りません。また、リスク管理の観点から、酢酸水の使用は勧められません。
当院の看護師からの依頼で、食酢(写真左)の4倍希釈液(約1%酢酸)をフラッシュした群と白湯をフラッシュした群において腸瘻チューブ内腔の微生物汚染について調べたことがあります。対象患者はいずれの群も3名のみでしたが、使用開始後7日目の腸瘻チューブ内腔の細菌数は、いずれの患者も105レベル/スワブでした。Acinetobacter spp.,Proteus spp.および Enterobacter spp.などの汚染を受けていました。
一方In vitro実験で、0.1%酢酸が静菌作用を示すことが報告されています1)。しかし実際の使用では、1%酢酸であっても腸瘻チューブ内腔の細菌増殖を防ぐことはできませんでした。この理由として、腸瘻チューブ内の酢酸が経管栄養剤や体液などで不活性化を受けたり希釈されたことが考えられます。したがって、ご質問の0.36%酢酸水(食用酢:水/1:10)をフラッシュしても、胃瘻チューブや腸瘻チューブ内の細菌汚染を防ぐことはできないと推定されます。
また、経腸栄養用チューブ内へ日本薬局方酢酸(約30%酢酸,写真右)15mLと白湯3 mLとの混合液(約25%酢酸)をフラッシュして、患者が死亡した事例があります2)。食酢の原液をフラッシュしても問題は少ないと思いますが、誤って日本薬局方酢酸の原液などをフラッシュすると重大な結果を招くのです。
以上から、胃瘻管理のための酢酸水の使用は勧められません。胃瘻チューブ内のフラッシュには、白湯や水道水などを用いてください。
写真.食酢(左)と日本薬局方酢酸(右)
- 参考文献
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- Entani E, et al: Antibacterial action of vinegar against food-borne pathogenic bacteria including Escherichia coli O157:H7. J Food Protect, 61: 953-959, 1998.
- 公立大学法人横浜市立大学附属病院 酢酸の取扱いに関する医療事故にかかる事故調査委員会:酢酸の取扱いに関する医療事故にかかる事故調査報告書,平成25年8月.