クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)は、嫌気性菌であり、芽胞形成菌です。芽胞の状態では多くの消毒薬や熱が効きにくい性質があります。しかし、ヒトや動物の腸管内に生息し、健常人の5~20%が腸管内に保有している菌でもあります。抗菌薬投与により、腸管内の細菌叢が乱れた場合に異常にC. difficileが増殖して偽膜性腸炎や下痢を引き起こします。胆汁から活性状態で腸管内に排泄されるセフェム系抗菌薬の投与と関連が深い病態です。欧米では強毒型の毒素タイプⅢ、北アメリカPFGEタイプ1、PCRリボタイプ027(NAP1/027)の報告も散見されます。
C. difficileの発育に対して環境条件が適している場合には栄養型細菌となり、一般的な低水準の消毒薬でも有効です。環境の条件が菌の発育に適さない状況になると芽胞を形成して抵抗性が増し、環境中に長期間生存(5ヵ月以上生存可能)しています。しかし、バチルス属の芽胞に比較して熱に対する抵抗性はそれほど強くなく、100℃で概ね死滅します。
C. difficileの医療関連感染対策は、標準予防策と接触予防策の遵守ですので、特別な対応はおこないません。下痢を呈している患者の場合には、便中の菌量が多いためその対応には注意が必要です。特にオムツの処理は、厳重な接触予防策に留意して実施し、その後の手指衛生は流水と石けんにて特に丁寧におこないます。アルコールは芽胞に対して効果が期待できません。
該当患者の下痢が治まってからどのくらいの日数で感染対応を解除するかについては、決められた期間はありません。標準予防策と接触予防策は常におこなうことが臨床では求められているからです。トイレの便座の処理を特別な方法(たとえば1,000~5,000ppm次亜塩素酸ナトリウム処理)で実施している場合には、下痢が治まった時点で通常の清掃法に戻されても構いません。C. difficileはヒトの糞便中の常在菌であることを認識して対応してください。
なおC. difficileの偽膜性腸炎などの感染患者に使用した陰洗ボトルの消毒をベッドパンウォッシャーにて消毒した場合の再使用については、洗浄の条件をなるべく高めた条件でおこなって、再使用することは特に問題ありません。