洗浄・消毒・滅菌 Q&A

回答については、質問をいただいた時の基準に沿って回答しておりますので、現時点とは異なっている場合もございます。

学会で最近のガイドラインの講演の中で「清潔手術では、創閉鎖前に創部にヨード水溶液」と述べられていましたが、具体的に何%ヨード水溶液で行えばいいでしょうか。(R.N.)

ポビドンヨード水溶液と解釈してコメントを述べさせていただきます。

2016年の世界保健機関(WHO)、手術創感染防止ガイドライン1)では、切開創洗浄を裏付けるポビドンヨード水溶液洗浄の有効性に関するエビデンスは低いと述べられています。条件付きでの処置とも記載されています。然しまた、本文140ページ1)には、ポビドンヨード液による洗浄を示唆していますが、生理的食塩水による洗浄と比較して、優れているというエビデンスの質は低いとも述べています。これらより、創洗浄の手術創感染防止効果は、現段階において明白なエビデンスは伴っていないものと解釈します。

それでももし洗浄を行う場合は、ポビドンヨードの殺菌力は、有効ヨウ素available iodine濃度ではなく、遊離ヨウ素free iodine濃度に依存するとされていることを考慮してください(1976年に判明)。遊離ヨウ素濃度は、10%ポビドンヨード液の100倍希釈、つまり、0.1%水溶液で最大となります。それより薄くなっても、または、濃くなっても、遊離ヨウ素濃度は低下します。このことを、考慮して、洗浄液濃度を選択してください。但し、ポビドンヨードは、有機物の存在で不活性化されやすいので、配慮してください。

更に、2017年のアメリカ疾病管理予防センター(CDC)、手術創感染防止ガイドライン2)でも、洗浄効果は不確定なものであると述べています。日本手術医学会のガイドライン2013年版3)には、表1.の様に記載されています。

表1.手術野消毒に使用する生体消毒薬とその濃度3)
対象 薬物
正常皮膚 0.1?0.5%クロルヘキシジンアルコール
7.5%,10%ポビドンヨード
0.5%クロルヘキシジン
熱傷皮膚 10%ポビドンヨード
皮膚創傷部位 0.05%クロルヘキシジン
10%ポビドンヨード
原液あるいは2?3倍希釈オキシドール
0.025%塩化ベンザルコニウム
0.025%塩化ベンゼトニウム
粘膜および
その他の創傷部位
10%ポビドンヨード
0.025%塩化ベンザルコニウム
0.025%塩化ベンゼトニウム
膣洗浄 0.02?0.05%塩化ベンザルコニウム
0.025%塩化ベンゼトニウム
結膜嚢 0.05%以下のクロルヘキシジン
0.01?0.05%塩化ベンザルコニウム
0.02%塩化ベンゼトニウム
参考資料
  1. WHO. Global Guidelines for the Prevention of Surgical Site Infection. 2016.
    P19. Incisional wound irrigation
    The panel suggests considering the use of irrigation of the incisional wound with an aqueous PVP-I solution before closure for the purpose of preventing SSI, particularly in clean and clean-contaminated wounds. Strength: Conditional 条件付き Quality of evidence: Low
    P140. 4.18 Incisional wound irrigation
    The panel suggests considering the use of irrigation of the incisional wound with an aqueous PVP-I solution before closure for the purpose of preventing SSI, particularly in clean and clean contaminated wounds.

    ・Low quality evidence shows that the irrigation of the incisional wound with an aqueous PVP-I solution is beneficial with a significant decrease of the risk of SSI when compared to irrigation with a saline solution.

  2. CDC Guideline for SSI, 2017. JAMA Surgery Published online May 3, 2017(Wound irrigation)
    P E3.
    2A.1. Randomized controlled trial evidence suggested uncertain trade-offs between the benefits and harms regarding intraoperative antimicrobial irrigation (eg, intra-abdominal, deep, or subcutaneous tissues) for the prevention of SSI. Other organizations have made recommendations based on the existing evidence, and a summary of these recommendations can be found in the Other Guidelines section of the narrative summary for this question (eAppendix 1 of the Supplement). (No recommendation /unresolved issue.)
  3. 針原康. 手術部位感染(surgical site infection:SSI)防止. 手術医学 2013;34 Suppl.:58-70.

小林 寬伊(根岸感染制御学研究所 所長・東京医療保健大学 名誉学長 教授)
2017年12月


今回のWHOのガイドラインにてポビドンヨード(PVI)での創部皮下洗浄を推奨していることに少々違和感を覚えました。ポビドンヨード水溶液の濃度が示されていない点、小林寛伊先生が述べられているように、最適な遊離ヨウ素濃度では有機物により容易に不活性化してしまう点、消毒薬には界面活性剤が配合されており、わが国で販売されているポビドンヨードにはラウロマクロゴール(数年前まではポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)が配合されており、細胞毒性の可能性があるなどの点からです。

しかし、これまでに数多くの文献が発表されており、中でも Foumel l, et al. Meta-analysis of intraoperative povidone-iodine application to prevent surgical-site infection. Br J Surg. 2010;97:1603-13 PMID:20878943では、PVI洗浄とPVIを使用しない群とのメタアナリシスがなされています。2,465例のPVI群とそうでない2,539例が含まれた24のランダム化比較試験がなされており、SSI率はPVI群で8.0%,対照群で13.4%でした。PVI群でSSIを有意に低下させている結果となっていました(相対リスク0.58, 95%信頼区間0.40~0.83;P=0.03)。これらのメタアナリシスから今回のWHOのガイドラインが示すごとくの推奨が導き出されたと思います。

大久保 憲(医療法人幸寿会平岩病院 院長・東京医療保健大学 名誉教授)
2017年12月
感染と消毒ホームページ事務局(幸書房内)
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