洗浄・消毒・滅菌 Q&A

回答については、質問をいただいた時の基準に沿って回答しておりますので、現時点とは異なっている場合もございます。

注射時に使用するトレーを使用前後でアルコール拭きをしていますが、その必要性と根拠が曖昧です。準備前にアルコールで拭いた場合どのくらいの時間効果があるのか教えてください。(N.T.)

注射時に使用するトレー(図)は、使用前の混注(ミキシング)台と同様にアルコール拭きで清潔にしておく必要があります。なぜなら、誤ってルート刺入部などに触れた場合に、トレー由来の微生物が手袋を介して刺入部などに付着し、その後の刺入とともに注射液中へ混入する可能性があるからです。

わが国では注射剤の微生物汚染についての認識がうすいのですが、使用中の注射剤の微生物汚染が原因の感染は少なくありません1-3)。注射剤の微生物汚染はおもにルート操作時などでの接触で生じるので4-5)、ルート操作時やミキシング時では手袋の着用やその清潔保持のみならず、トレーや混注台の清潔保持も必要です。なお、トレーに対して家庭用食器洗浄機などによる熱水消毒を行っているのであれば、使用前のアルコール拭きは必ずしも必要でありません。

また、アルコールの時間効果についてのご質問ですが、アルコールはすみやかに揮発するので、アルコール拭きによる時間効果(持続効果)はありません。ただし、時間効果(持続効果)を気にされる必要性もありません。なぜなら、使用前に清潔にしておくことが重要だからです。

一方、使用後のトレーのアルコール拭きは、薬液などによる汚れの付着があれば必要です。アルコール拭きによる汚れの除去効果が期待できます。

引用文献
  1. De Smet B, Veng C, Kruy L, et al: Outbreak of Burkholderia cepacia bloodstream infections traced to the use of ringer lactate solution as multiple-dose vial for catheter flushing, Phnom Penh, Cambodia. Clin Microbiol Infect, 19: 832-837, 2012.
  2. Chiang PC, Wu TL, Kuo AJ et al: Outbreak of Serratia marcescens postsurgical bloodstream infection due to contaminated intravenous pain control fluids. Int J Infect Dis, 17: e718-e722, 2013.
  3. Oie S, Kouda K, Furukawa H, et al: Rapid detection of Candida parapsilosis contamination in the infusion fluid. Clin Nurs Studies, 6: 80-83, 2018.
  4. Playford EG, Looke DFM, Whitby M, et al: Endemic nosocomial Gram-negative bacteraemias resulting from contamination of intravenous heparin infusions. J Hosp Infect, 42: 21-26, 1999.
  5. 尾家重治:医薬品の微生物汚染とその対策 混注(ミキシング)操作.薬事,58: 125-128, 2016.

尾家 重治(東京医療保健大学 客員教授)
2018年08月
感染と消毒ホームページ事務局(幸書房内)
ホームページに関するお問い合わせはこちら