洗浄・消毒・滅菌 Q&A

回答については、質問をいただいた時の基準に沿って回答しておりますので、現時点とは異なっている場合もございます。

高齢者施設で入所者の歯ブラシを流水で洗浄後、次亜塩素酸ナトリウムでまとめて消毒しています。HBV,HCVについても不活化されるので一緒でも問題ないと考えていましたが、分けるべきでしょうか。(M.T.)

次亜塩素酸ナトリウム(ヤクラックスD液1%など)はB型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)のみならず、枯草菌の芽胞にも有効な幅広い抗菌スペクトルを示す消毒薬です。したがって、歯ブラシを次亜塩素酸ナトリウムでまとめて消毒しても問題ありません。分ける必要はありません。

ただし、歯ブラシの消毒に次亜塩素酸ナトリウムが必ずしも有効な訳ではありません。回答者は以前、血液内科の看護師さんの看護研究の手伝いで、抗がん薬治療を行っておられる患者様が使用後の歯ブラシの微生物汚染について調べたことがあります。流水での洗浄のみの場合と、流水で洗浄して0.01%(100ppm)次亜塩素酸ナトリウムへ1時間浸漬した場合とについて調べましたが、両群の汚染度に大差はなく、次亜塩素酸ナトリウム消毒後であっても12本中2本(16.6%)からは緑膿菌が検出されました。また本実験での観察で、流水で洗浄した歯ブラシにはごはん粒などの汚れがかなり付着していることが分りました。このような汚れや付着菌が産生したバイオフィルムなどが原因で、次亜塩素酸ナトリウムの消毒効果が発揮されなかったと推定されます。すなわち、歯ブラシは構造的に消毒が行いにくい物品といえます。

なお、老人介護保健施設においても流水で洗浄後の歯ブラシの微生物汚染について調べたことがありますが、Acinetobacter spp.(アシネトバクター)やSerratia marcescens(セラチア菌)などでの汚染のみならず、30本中5本(16.6%)からは緑膿菌が検出されました。


尾家 重治(山陽小野田市立 山口東京理科大学 薬学部)
2019年01月
感染と消毒ホームページ事務局(幸書房内)
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