"滅菌用トレイ"を市販のアルミ製水きり容器で代用し高圧蒸気滅菌した場合のリスクについてです。
先ず、包装材や滅菌コンテナについてはISOで規定1)2)があります。無菌バリアシステムで使用する材料を選定する際の考慮すべき事項として、①温度範囲、②圧力範囲、③湿度範囲、④必要に応じて上記事項の最大変化速度、⑤直射日光及び紫外線に対する露出、⑥清浄度、⑦バイオバーデン、⑧静電気的特性があげられています。この規定の中で、"滅菌用トレイ"という具体的表記は見当たりません。一方で、滅菌コンテナの内側で使用するトレイとして位置付け、留意点の記載がある文献3)もあります。滅菌バリデーションの保証の面でも"滅菌用トレイ"の品質管理は必要です。
高圧蒸気滅菌工程に使用する"滅菌用トレイ"は、高温高圧水蒸気に耐えられること、及び容器としての機能性能を持つことは最低条件です。よって、滅菌剤である蒸気への耐性、滅菌サイクル工程での温度変化(最高温度)への耐性、強度、負荷がかかった状態での剛性(変形のしにくさ)、耐衝撃性、繰返しの工程(洗浄から滅菌まで)への耐性などが求められます。
「市販のアルミ製水きり容器」が、以上のような条件がクリアできるかの確認が必要です。一般的にアルミニウム製品をアルカリ洗剤にさらすと、素材が白く変性します。これはアルミニウムの腐食で、腐食が進むと壊れたり穴が開いたりすることもあります。よって、アルミニウム製品は高圧蒸気滅菌に耐性でも、その前の洗浄においてアルカリ洗浄剤を使用したウォッシャーディスインフェクターは原則使用できません。また、滅菌過程で材質の変性や溶出などによる器材の機能損傷、蒸気の浸透性を阻害しない形状、乾燥状態等の確認も必要です。熱で軟化し容器としての強度が減弱する、1、2度の工程では問題ないように見えても、繰り返しにより異常を来たし高価な手術器具を傷めてしまう等のリスクも考えなければなりません。
最大限の安全性が求められる手術器具の滅菌に関連する"滅菌用トレイ"も、その目的が保証されるレベルのものを使用することが望まれます。
- 引用文献
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- https://kikakurui.com/t0/T0841-1-2009-01.html;最終段階で滅菌される医療機器の包装-第1部:材料、無菌バリアシステム及び包装システムに関する要求事項
- 日本医療機器産業連合会QMS委員会;滅菌医療機器包装ガイドラインVer.1.0、一般社団法人日本医療機器産業連合会、2014年1月
- 小林寛伊他;医療現場における滅菌保証のガイドライン2015、日本医療機器学会、 2015年5月25日