プリオン病感染予防ガイドライン(2020年版)に基づいて回答いたします。
針刺し切創時の対応について、現在では2%次亜塩素酸ナトリウムにて創を消毒するといった方法が良いとされています。
変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)と孤発性CJD(sCJD)の患者血漿を用いて、マウスへの感染性を示した実験もありますが、孤発性CJDの針刺しによる血液を介する人への感染は確認されていません。したがって、単発の針刺しや飛沫汚染などでプリオン病に感染するといった科学的根拠は示されていません。
新しいガイドラインにおいても、CJDを含むプリオン病患者の採血、脳脊髄液検査などの診療行為に関連して、医療従事者に生じる針刺しや切創、あるいは患者の診療やケア時の体液飛散による眼球汚染などに対して、医療従事者に行うべき処置の確立した方法は示されていません。
プリオン病に関わる針刺し切創、飛沫汚染時に行うべき対応としては以下の事項が考えられます。
①針刺し部位を2%次亜塩素酸ナトリウムに30分間浸す、その液を10分間ごとに交換する
②創を石けんと流水にてよく洗う。手洗いブラシなど皮膚に創がつく可能性のあるもので強くこすらない
③目に飛散した場合や口腔内に飛散した場合には、直ちに水道水や生理食塩水で洗浄を頻回に行う。次亜塩素酸ナトリウムは眼球や口腔粘膜には使用できない
一回の針刺しで感染する可能性は極めて低いと考えられますが、非常に潜伏期間の長い疾患ですので感染性の評価自体もむつかしいといえます。
大久保 憲(医療法人幸寿会平岩病院 院長・東京医療保健大学 名誉教授)
2020年11月