お金による手指汚染についてのご質問です。この質問ではお金の微生物汚染度が問題になるので、実際にお金の微生物汚染について調べてみました(表)。調査したn数が少ないものの、1000円札、100円、10円および1円硬貨いずれからも大腸菌群や黄色ブドウ球菌は検出されず、おもな汚染菌はバチルス属(Bacillus spp.)でした。ボロボロのお札であっても案外きれいであることが分かりました。図書館の本などと変わらないといった印象です。
以上から、お金を取り扱う際の手袋着用は必ずしも必要ないと推定されます。また一般論になりますが、レジ担当者が手袋を着用すると、都度の交換が難しいため着用しっぱなしで取り換えないというデメリットもあります。したがって、ご質問者のお考えのとおり、1回終了ごとの手指消毒が望ましいと思います。
また、もう1つのご質問のお金の消毒についてですが、消毒は不要と考えます。お金は微生物汚染を受けにくいと推定されるからです。また、確実な消毒を行うには手間がかかりますし、お金の劣化を招くからです。
なお、新型コロナウイルス感染者が自身の鼻咽頭液をお札に付着させてしまったなど最悪のケースを想定しておられるということであれば1)、そのお金は触れずに数日間放置しておいてください。そのうち新型コロナウイルスは死滅します(図)2-7)。
品 目 | 平均の菌量(生菌数) | おもな汚染菌 |
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1000円札(n=10) | 2.2×103/枚 | Bacillus spp. |
100円硬貨(n=20) | 10未満/硬貨 | - |
10円硬貨(n=10) | 180/硬貨 | Bacillus cereus などの Bacillus spp. |
1円硬貨(n=20) | 10未満/硬貨 | - |
- 引用文献
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- Jones DL, Baluja MQ, Graham DW, et al. Shedding of SARS-CoV-2 in feces and urine and its potential role in person-to-person transmission and the environment-based spread of COVID-19. Sci Total Environ. 749: 141364, 2020.
- Chin AWH, Chu JTS, Perera MRA, et al. Stability of SARS-CoV-2 in different environmental conditions. Lancet Microbe. 1: e10, 2020.
- Subpiramaniyam S. Outdoor disinfectant sprays for the prevention of COVID-19: Are they safe for the environment? Sci Total Environ. 759: 144289, 2021.
- Aboubakr HA, Sharafeldin TA, Goyal SM. Stability of SARS-CoV-2 and other coronaviruses in the environment and on common touch surfaces and the influence of climatic conditions: A review. Transbound Emerg Dis. 68: 296-312, 2021.
- Kramer A, Schwebke I, Kampf G. How long do nosocomial pathogens persist on inanimate surfaces? A systematic review. BMC Infect Dis. 6: 130, 2006.
- Oie S, Kamiya A. Survival of methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) on naturally contaminated dry mops. J Hosp Infect. 34: 145-149, 1996.
- 宗村佳子,木本佳那,小田真悠子,他.学校給食で提供された刻みのりによるノロウイルス食中毒.食衛誌.58:260-267,2017.
尾家 重治
(山陽小野田市立 山口東京理科大学 薬学部)
2021年08月