トイレの消毒は必要です。消毒用エタノール(76.9~81.4 vol%エタノール)の清拭で対応してください。一方、シャワーの消毒は必ずしも必要ではありません。十分な洗浄での対応でも良いでしょう。
公衆浴場で女児が梅毒トレポネーマに感染した事例があります。感染者がすわっていた浴槽のふちに女児がすわって陰部が接触したためでした。本事例のように、梅毒トレポネーマ、クラミジアおよび単純ヘルペスウイルスは、性行為などからの感染のみならず環境からの接触感染の可能性もあります。したがって、洋式トイレの便座やトイレノブなどには速効・速乾性で、かつ汚れの除去効果も期待できる消毒用エタノールでの清拭が勧められます。ただし、洋式トイレのセンサー窓(黒色のパネル箇所)は消毒用エタノールにより劣化が生じるので、この部分への消毒用エタノールの使用は不可です。
一方、シャワーは十分な洗浄で対応してください。梅毒トレポネーマは水や石けんでも死滅しますし、クラミジアやヘルペスウイルスも十分な洗浄で対応可能です。 なお、浴用イスなどで感染者の病変部位が接触した可能性があれば、念のため消毒も行うのが望ましいです。消毒用エタノール、0.1%(1,000ppm)次亜塩素酸ナトリウム、0.2%ベンザルコニウム塩化物、0.2%両性界面活性剤などいずれの消毒薬でも良いです1-5)。ただし、スポンジ様材質(ポリウレタンフォーム)の浴用イスは構造的に洗浄・消毒が行いにくいので(図)6)、浴用イスを用いるのであれば、スポンジ様材質でないものの使用が望ましいです。
- 引用文献
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- Willcox RP, Guthe T. Survival of T. pallidum outside the body: I. General observations. Bull World Health Organ. 35 (Suppl): 78-85, 1966.
- 大久保暢夫,他.梅毒トレポネーマおよびリン菌に対する陽性せっけんの殺菌効果について.基礎と臨牀,16: 6181-6183, 1982.
- Richmond SJ. The inactivation of Chlamydia trachomatis by chlorhexidine ('Hibitane'). J Antimicrob Chemother. 3: 523-525, 1977.
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- Klein M, Deforest A. The chemical inactivation of viruses. Fed Proc. 24: 319, 1965.
- Oie S, Yanagi C, Matsui H, et al. Contamination of environmental surfaces by Staphylococcus aureus in a dermatological ward and its preventive measures. Biol Pharm Bull. 28: 120-123, 2005.
尾家 重治(山陽小野田市立 山口東京理科大学 薬学部)
2021年12月