洗浄・消毒・滅菌 Q&A

回答については、質問をいただいた時の基準に沿って回答しておりますので、現時点とは異なっている場合もございます。

老人介護施設でクラスターが発生した時、N95マスクを1回使用毎に交換することは困難です。滅菌・消毒の機材もない場合、N95マスクを使用後に袋に入れアルコールを噴霧し密閉することで、再使用しても良いでしょうか。(K.W.)

ご質問は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のクラスターを想定したものとして、COVID-19対策におけるN95マスクの再利用について回答いたします。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の消毒においてアルコールは有効ですが、N95マスクを再利用するための消毒には不向きです。N95マスクの除染に関する研究では、アルコールがN95マスクのフィルター性能を低下させることが報告1,2)されていますので、行うべきではありません。また、不織布マスクは、静電気力により微粒子を捕集する特性3)から、湿った状態で密閉する保管も性能を落とす要因となります。

滅菌や消毒だけでなく、SARS-CoV-2の環境表面の生存期間を考慮した再利用を検討することができます。例えば、紙、ティッシュペーパーでは3時間、木、布では2日間、ガラス、紙幣では4日間、ステンレス、プラスチックでは7日間で陰性化したなど報告4、5)があります。CDC(米国疾病予防管理センター)6)は、1人に5枚のN95マスクを配布し、5日間のサイクルで毎日取り換える再利用を提示しています。職員数や対応状況はさまざまですので、上記を参考に、ご施設で使用間隔の設定や使用枚数等検討されてはどうでしょうか。

COVID-19の感染経路には接触感染が含まれるため、個人防護具を扱うときの曝露にも注意する必要があります。使用したN95マスクは通気性のよい袋に保管し、袋は毎回交換すること、2回目以降のマスク使用時のシールチェックには手袋を着用する、手袋を脱いだ後は手指衛生を行うこと、など手順を整理し、徹底されるとよいでしょう。

最後に、N95マスクの廃棄のタイミングとして、破損したとき、水に濡れたり、血液や体液などで汚染したとき、フィットしなくなった、息苦しくなった、メーカーの指示、などありますので、再利用時にはこれらに注意してください。

引用文献
  1. Lin TH, et al. Filter quality of electret masks in filtering 14.6-594 nm aerosol particles: Effects of five decontamination methods. PLoS One 2017;12(10):e0186217
  2. Dennis J. , et al. Effect of Decontamination on the Filtration Efficiency of Two Filtering Facepiece Respirator Models.Journal of the International Society for Respiratory Protection, 2007;24:93-107
  3. 木村一志. 静電フィルターの機能と応用,繊維学会誌,51(8),332-339,1995.
  4. Chin A, Chu J, Perera M, Hui K, Yen H, Chan M, et al. Stability of SARS-CoV-2 in different environmental condition. Lancet
    https://doi.org/10.1016/S2666-5247(20)30003-3
  5. van Doremalen, Neeltje, et al. "Aerosol and surface stability of SARS-CoV-2 as compared with SARS-CoV-1." New England Journal of Medicine 2020;382(16): 1564-1567.
  6. CDC :Implementing Filtering Facepiece Respirator (FFR) Reuse, Including Reuse after Decontamination, When There Are Known Shortages of N95 Respirators
    https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/ppe-strategy/decontamination-reuse-respirators.html

岡﨑 悦子(横浜市立市民病院 感染管理室 副室長)
2021年01月
感染と消毒ホームページ事務局(幸書房内)
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