洗浄・消毒・滅菌 Q&A

回答については、質問をいただいた時の基準に沿って回答しておりますので、現時点とは異なっている場合もございます。

流水と石けんによる手洗いと擦式アルコール製剤による手指衛生の選択について、目に見える手の汚染の有無のみで判断してよいかについてお伺いしたいと思います。目に見える汚染がなくともアルコールに抵抗性の微生物汚染の場合もあり、医療従事者への手指衛生の方法についてどの様に推奨すれば良いかについてご教授ください。(N.U.)

手指衛生は、石鹸と流水による手洗いと擦式アルコール手指消毒薬による消毒の両方を指しますが、目に見えた汚染がない場合はアルコール手指消毒が推奨されています1-3)。アルコール消毒薬が殺菌活性に優れており、皮膚の乾燥が少ない、簡便であるためです。擦式アルコール手指消毒薬は、携帯した場合はもちろんですが、廊下やベッドサイドなど使用する人の動線を考慮して設置すれば、必要な時にすぐに使用でき、移動しながら消毒することも可能です。手洗いは、手洗いシンクまで移動して、石鹸でこすり洗いをして更に流水ですすぐ、その工程や時間も現場スタッフには煩わしく、遵守率への影響も懸念されませんでしょうか。

ご心配されているように、擦式アルコール手指消毒薬による消毒だけでは、手指衛生は適切にはおこなえず、アルコール手指消毒と石鹸と流水による手洗いをうまく使い分けることが必要です。アルコール消毒薬には洗浄作用がありませんので、目に見える汚れがある場合は、石鹸と流水による手洗いが推奨されます。また、芽胞形成菌(Clostridioides difficile等)やエンベロープを持たないウイルス(ノロウイルス等)は、消毒薬に抵抗性があるため、アルコール手指消毒ではなく、石鹸と流水による手洗いにより物理的に落とすことが推奨されます。そして、消毒薬の効果が期待できない病原体をターゲットにしている時には、手袋を外した後に目に見える汚染がなくても石鹸と流水による手洗いを推奨します。手袋を外す動作による手の汚染について、シミュレーション234回のうち、124人(53.0%)に汚染が確認された報告4)があります。手袋着用により手の汚染量を減らす効果はあるものの、外す際に手を汚染してしまうことやピンホールの問題を考慮すると、外した後の手指衛生は重要です。

方法の選択については以上になりますが、それぞれ適切におこなわなければなりません。擦式アルコール手指消毒薬による消毒では、擦り合わせて15秒程度で手が乾くようであれば塗布量が不足している、十分量を塗布し20秒から30秒擦りあわせて消毒する、手洗いは40秒から60秒かけておこなう、など示されています1,3)。それぞれ手順を丁寧におこない、効果的な手指衛生につなげたいものです。

引用文献

  1. CDC:Guideline for Hand Hygiene in Health-Care Settings. MMWR 2002; 51 (RR-16)
    http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5116.pdf
  2. CDC:Guideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings 2007
    https://www.cdc.gov/infectioncontrol/pdf/guidelines/isolation-guidelines-H.pdf
  3. WHO. WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care
    https://www.who.int/publications/i/item/9789241597906
  4. Myreen ET, Sirisha K, Priyaleela T, et al. : Contamination of Health Care Personnel During Removal of Personal Protective Equipment. JAMA Intern Med. 2015; 175(12):1904-1910

岡﨑 悦子(横浜市立脳卒中・神経脊椎センター 医療安全管理室 副室長)
2024年05月
感染と消毒ホームページ事務局(幸書房内)
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