感染対策上のトイレの蓋についてのご検討は、経口感染防止の観点からでしょうか。
トイレの流水に関して、フラッシングによりエアロゾルが発生し、床から約1m舞い上がる、フラッシング後1分程度空気中にエアロゾルが残存することなど報告されています1)。トイレの蓋をしてフラッシングすることは、構造的にリスクを下げるのではないかと期待するところです。しかし、便器及び温水便座等のメーカーからは、蓋の目的は、便器の中に物が落ちることを防ぐ、デザイン性や温水便座の断熱性の向上といった内容で、感染防止の効果は示されていません。また、最近の報告では、フラッシングによる蓋の汚染、便座の汚染、トイレ内の壁や床の汚染を指摘し、蓋のあるなしで有意差はないとまとめられたものがあります2)。これらを踏まえると、蓋をして飛散量の減少につながってもゼロにはできない、蓋や便座、壁など汚染が生じると考えてよいのではないでしょうか。
トイレに関連した経口感染の感染経路は、飛散物を直接吸い込んでしまうことのほかに、病原体で汚染された便器や蓋、壁などに触れ、その手で口や鼻を触り病原体が粘膜に付着する、手洗いが不十分なためにトイレ以外の環境に病原体が運ばれ、ほかの人の手に付着し、同様に粘膜に付着し感染するなどです。
一連の行動とリスクを考えてみます。トイレに蓋を設置した場合、まず、流す前に蓋をすることが徹底できるかという問題があります。では、蓋をして流した場合、吸い込みによるリスクを下げる行動はできましたが、蓋を触った手の汚染リスクは高くなります。更に、手洗いが不十分な場合は環境の汚染リスクが高まります。蓋を設置しない場合は、蓋をした場合より吸い込みのリスクが高いと推察されます。
新病院建設においては、感染対策にどこまで予算を充てられるかという現実問題もあるでしょう。少しでも数を少なく設置する場合、不特定多数が使用する集合トイレと個室のトイレに分けて考えることもひとつ手かと思います。
経口感染防止策は、トイレの蓋を設置することと併せて、トイレの清掃や使用前の便座クリーニング、トイレ以外の環境清掃、そして手指衛生が関係してきます。リスクとご施設で可能な対策のバランスを考えて決定されるとよいです。
参考文献
- Li YY, Wang JX, Chen X. Can a toilet promote virus transmission? From a fluid dynamics perspective. Physics of Fluids. 2020;32(6):065107.
https://pubs.aip.org/aip/pof/article/32/6/065107/1068684/Can-a-toilet-promote-virus-transmission-From-a(2024年9月4日閲覧) - Goforth MP, Boone SA, Clark J, et al. Impacts of lid closure during toilet flushing and of toilet bowl cleaning on viral contamination of surfaces in United States restrooms. Am J Infect Control. 2024; 52(2): 141-146.
https://www.ajicjournal.org/action/showPdf?pii=S0196-6553%2823%2900820-9(2024年9月4日閲覧)