洗浄・消毒・滅菌 Q&A

回答については、質問をいただいた時の基準に沿って回答しておりますので、現時点とは異なっている場合もございます。

プラスチックグローブを手につけたまま擦式アルコール消毒をする医師や看護師がおり、擦式は皮膚でないと消毒効果がないことやグローブの劣化を説明しても理解してもらえない。どう説明したらやめてもらえるか。(H.O.)

当サイトでも過去に(2021年09月)プラスチック手袋の上から手指消毒を実施することに関する質問があり、手袋の上からの手指衛生の問題や手袋に関する情報について回答がされています。(https://www.disinfection.co.jp/qa/2109-01.html)上記のほか、医療用手袋と手指衛生の関連に関しては、WHO Hand Hygiene Technical Reference Manual(手指衛生テクニカルリファレンスマニュアル)1)のII.6 医療用手袋が必要なときの手指衛生の適応にも記載があります。

手指衛生や個人防護具の適切な取り扱いなど基本的な感染対策は、頭では理解しているものの実際の行動に結びつかない、あるいは研修等を実施して一時的に順守されるが継続しないという問題をよく耳にします。今回の質問者の方は手指衛生の方法や手袋の劣化については、既にスタッフへご説明されているものの、理解を示してもらえないとのことですので、切り口を変えた方法が必要かと思われます。下記に方法をご紹介します。
 
1.対象によってアプローチ方法を変える
全スタッフに同じ切り口で実施しても、受け取り方は様々かと思われます。
根拠を示してすぐ納得してくれる人もいれば、すんなり協力してくれない人もいます。手袋の上から手指消毒をしても効果が得られないことを聞いただけでは、医療従事者の手を介した患者への交差感染が防止できない、つまり医療従事者自身には問題ないと考えている可能性もあります。CDCの隔離予防策のガイドラインでの標準予防策には、医療従事者が未知の病原体から自身を守るということも挙げられています。医療従事者自身も危険である、つまり自分も曝露する可能性があるという方向から説明することで、自分が損益を被るのは嫌と考える人にはこちらの視点から説明すると効果があるかもしれません。
   
2.巻き込みやすい人から実践者を増やす
まず、自分の身近にいる理解者を巻き込み、味方を増やす作戦です。
根拠は理解しているが行動に反映するのが困難な人を説得するのは最後にします。外堀を固めて、「あとはあなたが実施してくれれば(遵守率が)100%になるので」とお願いするのも一案かと思います。
WHO Hand Hygiene Self-Assessment Framework 20102)の5.手指衛生のための施設の安全文化には、自施設で最適な手指衛生実践の実行と推進に専念する手指衛生チームの存在、施設管理者の理解など組織的な対応について回答する項目があります。

3.効果的でないことを視覚的に示して理解を得る
以前、研修で実施して効果があった方法をご紹介します。(推奨しているものではなく筆者の私見です。)
手洗いの教育で使用する蛍光塗料とブラックライトを用います。手袋の上から手指消毒の要領で塗料を塗布し、実際にブラックライトを当てたところ、塗料のムラができていることがわかりました。手袋の上から擦式アルコール手指消毒剤を使用しても十分塗り拡げられないことを実際に体験させることで、正しい方法を理解してもらうことができました。

参考文献

  1. WHO Hand Hygiene Technical Reference Manual
    WHO手指衛生テクニカルリファレンスマニュアル日本語版
    https://amr.ncgm.go.jp/pdf/Hand-hygiene-technical-reference_Japanese.pdf
  2. WHO Hand Hygiene Self-Assessment Framework 2010
    WHO 手指衛生自己評価フレームワーク2010年日本語版
    https://amr.ncgm.go.jp/pdf/20210205_WHOHandHygiene.pdf

黒須 一見(国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター 第四室)
2024年12月
感染と消毒ホームページ事務局(幸書房内)
ホームページに関するお問い合わせはこちら