洗浄・消毒・滅菌 Q&A

回答については、質問をいただいた時の基準に沿って回答しておりますので、現時点とは異なっている場合もございます。

次亜塩素酸ナトリウムで清拭する際の接触時間について。浸漬で用いる時には、消毒と滅菌のガイドライン等において30分浸漬等と記載がありますが、清拭で用いる時の接触時間についてはどの微生物にも特に記載がありません。例えば、0.1%の次亜塩素酸ナトリウムを清拭で使用する際、ノロウイルスやクロストリディオイデス・ディフィシル、HBV/HCVにはどれぐらいの接触時間を確保すればいいでしょうか?(K.T.)

浸漬での次亜塩素酸ナトリウムの使用であれば、ご指摘のとおり30~60分間浸漬が基本になります。30分間以上の接触時間を保てば、クロストリディオイデス・ディフィシル(以下ディフィシル菌と略す)の芽胞のみならず、炭疽菌やセレウス菌などの芽胞にも有効です1)

一方、清拭使用では、接触時間の規定はありません。清拭して乾燥するまでの時間が気温・湿度や適用材質などにより異なりますし、乾燥後に再度清拭して接触時間を保つ方法は実用的ではないからです。したがって、次亜塩素酸ナトリウムの清拭使用での接触時間は5分間などを目安にしますが、とくに規定がないのが現状です。ただし、バイオテロに使用された場合での炭疽菌の環境消毒には、60分間の接触を保つため、次亜塩素酸ナトリウムでくり返し清拭する方法が推奨されています2)

ディフィシル菌や破傷風菌などは芽胞を産生しますが、これらの芽胞は微生物のなかでもっとも強い消毒薬抵抗性を示します。すなわち、細菌芽胞に有効であればノロウイルスやHBV/HCVにも有効です。そこで、今回のご質問では、ディフィシル菌の芽胞に対する次亜塩素酸ナトリウムの清拭消毒について述べます。

ディフィシル菌の芽胞に対しては、0.1%(1,000ppm)次亜塩素酸ナトリウム清拭が有効です3-8)。また、0.1%次亜塩素酸ナトリウムでの環境清拭でディフィシル菌関連感染症を減らせるとの報告もあります4,9)。0.05%(500ppm)液ではやや効果が劣ります3,6,8,10)。なお、次亜塩素酸ナトリウムは汚れ(有機物)の存在下での効力低下が大きいので、便座などで汚れの付着があれば、前もっての汚れの除去や、0.5%(5,000ppm)などの高濃度液での清拭が必要です。また、次亜塩素酸ナトリウムの広範囲面積の清拭では、窓の開放などの換気が必要になります。

引用文献

  1. Oie S, et al. Disinfection methods for spores of Bacillus atrophaeus, B. anthracis, Clostridium tetani, C. botulinum and C. difficile. Biol Pharm Bull. 34: 1325-1329, 2011.
  2. The U.S. Environmental Protection Agency (EPA). Anthrax spore decontamination using bleach (sodium hypochlorite). Pesticides: topical & chemical fact sheets. July 2007.
  3. Gerding DN, et al. Clostridium difficile-associated diarrhea and colitis. Infect Control Hosp Epidemiol. 16: 459-477, 1995.
  4. Wilcox MH, et al. Comparison of the effect of detergent versus hypochlorite cleaning on environmental contamination and incidence of Clostridium difficile infection. J Hosp Infect. 54: 109-114, 2003.
  5. Vonberg RP, et al. Infection control measures to limit the spread of Clostridium difficile. Clin Microbiol Infect. Suppl 5: 2-20, 2008.
  6. Omidbakhsh N. Evaluation of sporicidal activities of selected environmental surface disinfectants: carrier tests with the spores of Clostridium difficile and its surrogates. Am J Infect Control. 38: 718-722, 2010.
  7. Martin M, et al. National European guidelines for the prevention of Clostridium difficile infection: a systematic qualitative review. J Hosp Infect. 87: 212-219, 2014.
  8. 和多 一,ほか.Clostridium difficile感染症患者の周辺環境のC. difficile汚染とその消毒.医学と薬学.71: 2097-2102, 2014.
  9. Hacek DM, et al. Significant impact of terminal room cleaning with bleach on reducing nosocomial Clostridium difficile. Am J Infect Control. 350-353, 2010.
  10. 尾家重治,ほか.Clostridium difficileの芽胞に対する次亜塩素酸ナトリウム清拭の消毒効果.環境感染誌.27: 329-332, 2012.

尾家 重治(山陽小野田市立 山口東京理科大学 薬学部)
2025年01月
感染と消毒ホームページ事務局(幸書房内)
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