水を使わない物品の良い管理方法はありません。汚れの除去には水が必要です。
ご指摘のとおり、シンクで物品を洗浄すると、シンク内での水のはね返りや、スポンジなどの使用によりCPE(カルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌)汚染を受ける可能性があります。しかし、CPEなどのグラム陰性桿菌は乾燥すると死滅しやすい特性があります(アシネトバクターを除く)。したがって、シンクで洗浄後の患者個人の物品は十分に乾燥させれば、CPEの問題はほぼないと推定されます(入れ歯は乾燥させないので除く)。
なお、コンプロマイズド・ホストでは、患者個人の物品に対して消毒などの対策が必要になることがあります。ご参考までに、ご質問者がリストアップされた物品の微生物汚染対策例をあげます。
・ガーグルベースン,コップ
家庭用食器洗浄機の使用が勧められます(図1)。70~80℃・3分間などの熱水により十分な消毒効果が得られます1)。また、洗浄後に0.01%(100ppm)次亜塩素酸ナトリウムへ1時間浸漬する方法もあります。
・歯ブラシ
歯ブラシは、スポンジと同様に構造的に消毒が行いにくい物品です。お米などの汚れが付着しやすく、かつ洗浄や乾燥が行いにくいからです。実際、血液内科の看護師の依頼で歯ブラシの微生物汚染について調べたことがありますが、調べた15本いずれも高濃度細菌汚染を受けており、うち3本(20%)から緑膿菌が検出されました。また、これらの緑膿菌汚染の歯ブラシを0.01%(100ppm)次亜塩素酸ナトリウムへ1時間浸漬しても、緑膿菌の消毒はできませんでした。さらに、介護施設で使用されていた歯ブラシ計27本について調べたところ、うち4本(14.8%)から緑膿菌が検出されました。
歯ブラシの微生物汚染を低下させる方法として、交換頻度を高めたり、複数本を用意して使用後はできるだけ汚れを落として風通しの良い場所で乾燥させるなどがあげられます。
・入れ歯
入れ歯を浸漬しておく液(入れ歯洗浄液)は、体位変換が行いにくい患者などには感染源になり得ます2)。したがって、入れ歯洗浄液の清潔保持も必要です。入れ歯洗浄液として水道水や市販製品を用いるのであれば、1日1回は入れ替えてください。また、浸漬容器には少なくとも7日間に1回の洗浄と乾燥が必要です(図2)。なお、8vol%エタノール含有0.1%ベンザルコニウム塩化物(ヤクゾール®E液0.1など)を入れ歯洗浄液として用いる方法もあります。この場合には、7日間ごとなどの入れ替えとしてください。
引用文献
- Ebner W, Eitel A, Scherrer M, et al. Can household dishwashers be used to disinfect medical equipment? J Hosp Infect. 45: 155-159, 2000.
- Matsumoto S, Morikage N, Oie S. Burkholderia cepacia-contaminated dentures possibly cause pneumonia. J Water Health. 21: 826-830, 2023.